日本式のバレンタインデーは私にはちょっと遠い行事。
告白はしない。おまけにチョコは好きじゃない。
だけど身近に重度のチョコ好きさんがいる。それも複数。
お菓子作りが好きな私としては、これは何かせねばと思う。
今日はそんな話。
お菓子作りは好きだ。
持って行ったお菓子が喜ばれる、あの瞬間が好きだ。
お菓子好きの人の笑顔が好きだ。
そして、賛辞が好きだ。
「おいしい」と言われれば、作るモチベーションが上がる。
「すごい」と言われれば、生きるモチベーションが上がる。
目標は他者への貢献と、自己の充実感と。
お菓子作りの動機は案外そんなところ。他の人がどうかは知らないが。
そう書くと妙な計算高さを感じるけれど、
「一所懸命に作ったお菓子を、誰かに喜んでもらえたら嬉しい」 というところは一般と同じ。
※以下、追記。長いです・・・すんごい長いです。
今回のバレンタインフェアでは
①マフィン(チョコ&プレーン)
②デコレーションケーキ(チョコ&ホワイトチョコ)
を製作した。A部とB部、両方に持って行ったので2種類。
①はのドライブの日に先輩方に渡した。
渡した時に喜んでもらったし、夜にわざわざ「おいしかったよ」のお礼メールをもらった。
お礼メールはやっぱり嬉しい。顔文字や絵文字なんか添えてあると、それだけで幸せ。
そして今日、②のケーキを持ってB部へ。
今回のケーキは「ガナッシュケーキ」
それもホールケーキ×2という、自分でもちょっと気合入れすぎかと思うラインナップ。スポンジは市販品だったにも関わらず、煩雑な手順と複雑な工程のせいでどえらい時間がかかった代物。
今にして思えば、あのケーキに懸けてるものは半端じゃなかった。金も、時間も、気力も。
それだけに、返ってきたものも大きかったのだけど。
14日の午後。
雨模様の中を、私は自転車で大学まで行かねばならなかった。
ちょっと想像してほしい。ぬれたアスファルトの道を、30分。それもケーキ2ホールを抱えて行くという事態を。
軽く、極限。アスファルトの継ぎ目にさえ神経をすり減らしながら自転車をこいだ。
(途中100円ショップでフォークを買ったが、店を出る時にフッと自転車が倒れてケーキがつぶれている光景を想像したら、卒倒しそうになった)
「誰がいるかなー」なんてワクワクしながらたどり着いた部室の中にいたのは三人。
先輩二人(K先輩、N先輩)に同級生(水城朔夜さん)
愕然とした。
だって、小なりとはいえ2ホール。食べきれるのか、この人数で? 膨れ上がる焦燥が頭の中でめくるめく。
(ケーキを余らせるわけにはいかないけどみんなお腹いっぱいで、誰が食べるかビミョーな空気に・・・なんて展開になったらどうしよう!押し付けあうために持ってきたケーキじゃない。ましてや自分で処理するなんて耐え難い恥辱!ケーキを食べてもらえなかったら・・・不評な上に余りそうになったら一体どうしたらいいんだ!)と。
・・・ドアを開けた時点でそこまで気を回してる自分が、いろいろと心配です。
それでも勇気を振り絞って「先輩!ケーキ作ってきましたー!」なんて言ってみた後、私はいそいそとチョコケーキだけを取り出した。白い方は、余った時のことを考えると出せなかった。
カットはN先輩にお任せした。実はハート型のケーキだったのだけど、真っ二つに切っていただきました。
ハートを縦に一刀両断。切り口は見事にギザギザです。・・・ええ、当初の狙い通り。
先輩方はゲームに夢中だったので、ケーキはしばらく放置されてた。せっかく切ったのに。
嫌な予感的中か、あーそうか、うん。ケーキよりパワプロですよね。面白いですよね、パラメーターのバランスとか悩みどころですもんね。そうですよね、このケーキは持って帰りますはい了解です、食べませんよねはい終了。
・・・なんて考えてたら、朔夜さんがようやく最初の一切れを食べてくれた。彼女は手作りお菓子の同志で、その日もふわふわのマシュマロなんて心憎いものを持参していた。
その時の私は先輩の反応にあまりにも絶望しており、せっかく朔夜さんが感想を言ってくれただろうに、ぼんやり聞き流していた。今思えば惜しいことを。
それからしばらくして、ようやくK先輩がケーキに手を伸ばした。
あ、なんだ食べてもらえるのか。などと思ったのは我ながら悲愴。
K先輩はギザギザに割れたハートの一部を切り出して、皿に取り分けた。そして口に運んだ。
思案する目で宙を見上げながら、しばらく味わって、漏らした感想が
「・・・あ、おいしい」
そ、そそ!
それを待ってた!
もう、桃色のため息つきながら頬杖ついて窓の外を見つめちゃうくらいに、待ち焦がれてた!
他ならぬK先輩が、スペース確保のためにケーキを邪魔そうに押しのけた時も。
ようやく水城さんが最初の一切れを食べてくれた時も。
切れ目がギザギザのハートケーキと、やさぐれてギザギザハートの私が見つめ合ってた時も。
ずっと、その言葉を、待ってた!!
一切れ口に運ぶごとにK先輩がリアクションをくれる!
ここへ来てようやく光明が見えた。私の頭もようやく活動を再開した。
するとK先輩の声を聞いて、それまでパワプロにいそしんでたN先輩もついにこちらに向き直った。
そして「どれどれ・・・」なんて言いながらケーキを切り分けていらっしゃるN先輩。
そのN先輩が食べようとしてるところに、K先輩が「普通にウマくてビックリするよ!」などと声をかけていらっしゃる。おお、K先輩には好感触!
――ちなみにN先輩は、無類のお菓子好きでチョコ好き。でも「先輩、そんなにチョコ好きなんですか?」って聞いたら強い調子で否定された。曰く、
“「好き」違うから、「大好き」だから”
その瞳の中に、信念の炎が燃え盛るのを見た。
そんなN先輩だ。これはもうヒット確実じゃないか?期待が高まり、自然とN先輩の顔を注視してしまう。下を向いてるから表情はよく見えないけれど。
先輩は皿にケーキを取り分けた。フォークでもって、スポンジとガナッシュを一緒にして切り分けて、おもむろに口へと運ぶ。
『どうですか。上・中・下で言うとどこですか。まさかマズイってことはないですよね?及第点?もっと上?下?』
息を詰めてる私たちを尻目に、一口目を食べた先輩は、それを黙々と味わって――
・・・あれ、先輩?
今、笑った?
突然、N先輩の表情が変わった。
相好を崩す、というのか。思わず、あるいは堪えきれずに笑ってしまったような・・・
それは、間違いなく笑顔だった。
それもとびきりの幸せに遭遇した時の、あの表情。
隣からK先輩が「ね、ウマいでしょ!?」と声をかけるけど、N先輩は答えない。さらに深くうつむいて黙ってるだけ。
それでも見ている方にはその答えが一目瞭然。完全に隠れた表情のかわりに、ケーキを口に運び続ける手が、そして全身が言ってる。
ふっと顔を上げて、その答えをただ一言。
「・・・う ま い」
とびきりの、笑顔と一緒に。
それを見たとき、良く分かった。
先輩、本当にチョコが好きなんだな、と。
そして、本当に美味しかったんだな、と。
うん、ケーキ作って良かった。
がんばって、良かった。
お菓子作りは好きだ。
持って行ったお菓子が喜ばれる、その瞬間が好きだ。
食べ終わった後、N先輩は充実感あふれる笑顔で「おいしかったです」と言って下さった。
あんなにいい笑顔を正面から受け止めたのは、本当に久しぶりだった。むしろ私が「こちらこそ、いい笑顔を頂きました!ごちそうさまです」と言わずにはいられなかった。
その後はホワイトチョコの方も無事に出すことが出来たし、両方ともほとんど食べつくされた。
好評かつ高評価で。大きな固まりを指した先輩が、獲物を狙うような嬉々とした目で「これ、全部食べても?」なんて尋ねて下さったり。「悪いけど、遠慮とかないから」なんて宣言が出たり。
実に充実した日だった。
これこそがお菓子作りの醍醐味。
なんだかんだで、帰る頃には雨もすっかり止んでいましたとさ。
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自分に向けられた笑顔ってのは、生きる活力になる。
うん。また、何か作って持って行こう。
そう思って満たされた心地でいたら、N先輩がいきなり
「――で、お返しは何がいい」
と尋ねてきた。
私はこれにびっくり。だって、N先輩からそんなことを言われる日が来ようとは思ってなかったし。
よりによって、私がめちゃくちゃ幸せなこの瞬間にさらにお返しの話を?そんなに美味しかったのだろうか。
しかし突然のことでまともなお返しが思いつかない。
一瞬よぎった回答の一つが、あろうことか
“あの・・・また、さっきみたいないい笑顔を下さい!――なんて言ったら、ヘンな後輩だと思いますか?”
これは、言い換えれば
「先輩の、素敵な笑顔がほしいです!」ってこと。
もちろん言わなかった。
けれどあれは、そんな言葉が出るくらいのいい笑顔だった。
いや、本当に今日は『誰かの笑顔は生きる活力』という話に終始するのだけれど。
結局リクエストが「キャラメル味のプリン」になってしまったり。
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タバコ吸ってる人がキョロキョロした瞬間に灰皿を差し出し、時間を聞かれた時に誰よりも早く答えることを生き甲斐にしている。座右の銘は「当意即妙」。軽度のナルシズムは功罪一体で重度のサディズムは秘匿事項。手紙書き・片付け・シイタケが非常に苦手な、体長163cmの学名“Homo sapiens”でございます。
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