この冬はもう、なんかその、すっかり暖冬なわけ。
ねー聞いてー!アタシ今年はほとんどピザまん買ってないよー!
一人で帰ってるけど、お月様と会話とかしてないよー!
なんつってる矢先の出来事。
先に言っておくけど、オチなんて無い。
【第一幕:アイツのことなんて気にしてない!】
27日の夜、例の私のガタガタ自転車が、画鋲を踏んでパンクしました。
「だってアイツ(自転車)私の気を引こうとしてさー、ものすっごくアピールして来んの~!
もう体当たりもいいとこじゃん、パンクとか。あんだけされるとかえって引くわ~。
つーか、正直迷惑なんですけどー。ウザいんですけどー」
つー勘違いっぷりでさー。アイツ、本当さー・・・もう。
んで、へこたれた前輪を引きずって、ひょこひょこペダルを漕いでおりました。するとお腹がへるわけですよ。何の脈絡もなくね。
帰りの途中には24時間営業のスーパーがあった。まあ夜の9時でしたから、そこで売れ残った値引き品のオニギリでも買おうと思ったわけ。
【第二幕:小鳥さん の おとしもの を ひろった】
スーパーの手前には私の母校(高校)がある。
母校の横は見事な楠の並木道だ。夕方になると付近の小鳥どもが、空を覆わんばかりの黒雲となって木々に飛来する。
日暮れの前後、頭上では無数の楠の葉が一斉にくちばしを生やしたような大合唱。それはまさに小鳥の魔窟。
そんな道を通ってスーパーに着いた。
(・・・あ、その並木道の路面はね、白いんです。)
(というかアスファルトに白いペンキをまき散らしたようになってるんです。)
(なんででしょう?)
スーパーに着いた。そこの駐輪場には店内から照明が漏れてた。
ふと目をやったのは、光に照らされた私の右肩。そこにアスファルトを白くする「塗料」が付着してた。
精一杯メルヘンに言えばそれは
「小鳥さんの落し物」
いやいやいや・・・・・・あははは。
その時アタシは言いましたよ。
「 ふ ~ ん 」
ってね。
お後がよろしいようで。
トイレに駆け込んだ。
右肩に、小鳥さんの落し物て。ふーん、じゃねえよ。
【第三幕:女の子がかけこんだ小屋には(例の如く)腰の曲がったおばあさんがいました】
ちょっと寂れた雰囲気の、ありふれたスーパーのトイレ。換気扇がやけにうるさくて陰鬱な雰囲気。
個室は二つあって、ひとつは鍵がかかってた。
のだけど、よく見たら扉が閉まってない。わずかに隙間が開いている。
鍵はかかってて中には人の気配があるのに・・・なんで・・・?
と思いきや、扉がいきなり
ガタガタ、 ガタガタ!!
同時に個室の中から、正体不明の声が。
「あからァァァん」
私の、声にならない絶叫!内心、軽くパニック!!
誰これ、何!何なの!!何の、声!?
もう・・・声っつーか、うめき声っつーか。性別も、年齢も、この世のモノかすらも不明の、声。
その声の主が、開きかけの扉の向こうから、何事かを叫んでる。
そりゃもうね、扉を蹴破って、正体を確かめるか?
殺られる前にやる?
いや、逃げる?
トイレの外、店の外?せめてトイレの壁際まで?
動けねー。
断じて動けねー。
って足が言ってます。そう、一歩も。頭上では換気扇が猛り狂ってる。それこそ亡者の歓喜を煽るような音で。
多分私、1分くらい固まってた。
その間にそこらを散歩してたらしい判断力さんが、ヒョッコリ帰って来た。
『あー、スッキリした』って顔で。『・・・・・で、どうした?』つー感じで。
お前・・・っ!もう、早くこっち来てってば!
冷静な判断力でもって見たところ、その個室の中に誰か閉じ込められてるらしい。声からして多分おばあちゃん。トイレの扉は内開きなのに無理やり外に押したもんだから、扉が外側のストッパーを超えてしまい、外にも内に開けなくなったというところか。
蝶番の関係からも、扉を外から内側に押し戻してやらないと駄目らしい。
そこで中のおばあちゃんに「危ないから下がっててくださいね~」「ちょっと扉を蹴りますから、大きな音が出ますよー」なんて声掛けながら、手やら足やらでドアを押してみる。
戻らなかった。
ドア、の上端がドア周りの金具に引っかかってて、どう押しても内側に戻らなかった。
洗面所に足かけて、壁の出っ張りに登って、戸板の上端を側面から足で押した。んで蹴った。
・・・戻らなかった。
そうこうしてるところに、背後でトイレのドアが開いて誰かの入ってくる気配が。
だ、誰!ちょっ・・・て、手助けお願いします!!
振り向くとそこにいたのは、上体が地面と平行になってるおばあさん(非力)
【第四幕:再会はいつもトツゼン☆】
おばあさん(非力) は中に閉じ込められてる人の連れだった。
私が四苦八苦してる間に、なんともう一つの個室で自分の用事を済ませたおばあさん(非力)は、私が壁を押したり蹴ったりするのを見学しながらモゴモゴと、「いやー、(連れが)なかなか帰ってこんけん見に来た」というようなことを仰いました。自分の用事を済ませた後で。
「お店の人を呼んで来てください」とお願いしました。トイレの壁によじ登った辺りで私の見せ場は終わってたし。
しばらくして、お店の女の子(私より非力そう)が入ってきてしばらく扉を押したり引いたりした後、もう一人女の子を呼んで同じことをやってた。
内心で(フフフ、壁に登るなんてアクロバティックな救出方法、一介のレジ打ちには思いつかないでしょうね)なんて思っていたら、終いには二人で男子の店員さんと店長らしきおじさんを呼んで来ました。
「失礼しまーす」
つって女子トイレに入ってきた店員さん。なんとビックリ。
中学校で同じ部活をしてた、M君でした。
「おお!」
「おお!」
「久しぶりー!」
「久しぶりー!」
お互い同じように右手を挙げて同じ言葉を投げかけた。
――他にどんな声の掛け方があったというんだ?
同級生の男の子との5年ぶり再会が女子トイレ。
結局トイレのドアを店長さんとM君で壊して、事はあっけなく落着した。まさに一瞬。
店長さんが「使用禁止の紙を貼っといて」つって、みんな慌しくトイレから出て行って、私一人が残された。
相変わらず換気扇が唸ってて、トイレのドアが壊れてて、コートの右肩には小鳥さんの落し物。
本来の目的を思い出した。洗面台で洗い流そうとして、ふと右手が視界に入る。薬指の腹から血が出てた。
あわてて今首に巻いたショールをはずすと、そこにも一点血のシミがついてる。
手とショールとコートをみんな水道で洗って、財布に常備してるバンソーコーを薬指に巻いて、そして鏡を見ながらちょっとボーっとした。
そしたら私の後ろからさっきの女の子二人が入ってきて、壊れたドアに『使用禁止』の張り紙を貼ってそそくさと出て行った。
その後に続くように、半分夢心地のままトイレを出て、店内に入った。
ずいぶんと寄り道をした挙句にようやくたどり着いた食品コーナーで、見切り品のメロンパンを買った。店内にはM君もさっきの女の子も見当たらなかった。私は何事もなくレジを通って、店を出た。
空気が冷たく澄んでいて夜空の月が明るい。スーパーの明かりが遠ざかるにつれて、少しずつ現実に戻って行くような気がした。
車輪は相変わらずつぶれたまま。ともすれば左へハンドルを取られる自転車と、なんともいえない徒労感を引きずりながら
「結構がんばったんだけどなー」
なんて思ってたけど、誰の賞賛も、ねぎらいも、ツッコミもない。月の下をそのまま、えっちらおっちら家へ帰って行きましたとさ。
【おまけ】
帰りに近所の商店街の中を突っ切った。シャッターの閉まった店々の前を、一人の兄ちゃんが走っていた。私は商店街の端から端まで彼と並走した。商店街の端に着いた彼は、そのまま足を止めずに二本先の路地を左折して、冬の夜の底に消えて行った。
彼は海水パンツ一丁で、虫取り網を担いで走っていた。
この夜に、オチなんて、無い。
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タバコ吸ってる人がキョロキョロした瞬間に灰皿を差し出し、時間を聞かれた時に誰よりも早く答えることを生き甲斐にしている。座右の銘は「当意即妙」。軽度のナルシズムは功罪一体で重度のサディズムは秘匿事項。手紙書き・片付け・シイタケが非常に苦手な、体長163cmの学名“Homo sapiens”でございます。
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