今日は部活の用事でK大学に行ってきた。
この大学のキャンパスがとにかく広い。私が通う大学とは敷地面積も大学の規模も格もケタ違い。地図で見ると敷地面積は手の平と親指の爪ほども差があるのだ。風は涼しく緑は豊か。自然に囲まれ落ち着いた環境。
それは絵に描いたような「あこがれのキャンパス」
文豪・夏目漱石ゆかりの大学で、体育館の入り口横には何気ない風に嘉納治五郎の碑が立っている。旧制五校の校舎“赤煉瓦”が今も残る世に迷いなき名門大学。
歴史を感じさせるその佇まいに感動しつつも、母校を思って多少なりとも落胆したことは否めない。
(今いる大学受けることはかなり早い時期から決めていた。入学した今も後悔はないのだけど、たった1回だけその決心が揺らいだのが、K本大学を見学した後で今の大学を見学したときだった)
用事が済んだあとは親の迎えを待つことになっていた。しかし用事が思ったより早く終わって2時間以上も暇が出来てしまったので、暇つぶしの材料を仕入れに近くのコンビにへ向かった。
コンビニではなんと暴君ハバネロのシリーズ最新作「超暴君」を見つけた。幸いにも口内炎が治りかけていたので喜んでそれをゲット。それからグレープフルーツジュースと、書籍コーナーで見つけた江戸時代の武士の本を購入して学内に帰還。
それから読書にいい場所を求めて構内を散策。せっかくだから校舎内の休憩スペースよりも木陰で読者の方がいいと思ったのだ。するといい場所があちこちにある。涼しい木陰、柔らかな地面に生える下草、時代を感じさせる石や倒木などがあってちょっとした林だ。何度か蚊に追われて場所を変え、最終的には自転車小屋の近くの木陰にあったベンチに腰掛けた。
自転車置き場とはいっても見渡す限り緑と土の地面だから、大学で毎日コンクリートやブロックばかり見ている私には極上の読書空間。おまけにちょっと向こうには銅像の夏目漱石が腰掛けていて、頬杖をつきながら手振りで何か言おうとしている。そういう場所で読者できるなんてかなりの贅沢だろう。そんな中ではちょっと品がないとは思いつつも、お菓子と飲み物を楽しみながら読書に耽った。
するとあるとき、後ろの方から「コンコンコン」という音が聞こえてきた。木と木がぶつかるような音だったので、木にぶらさげた木札が風に揺れて幹にぶつかっているのだろうかと思った。しかし風が吹いていない時もその音は聞こえてくる。
何だろう。周囲が静かなだけに耳につくのだ。そう大きな音でもないがすぐ近くから聞こえてくる。私は本から目を上げて辺りを見回した。するとまもなくその音源は見つかった。
それは思ったよりも高いところにあった。
私の頭上数メートルの木の幹で、キツツキが木を突付いていた。
・・・え、キツツキ?
見た瞬間、「嘘だろ」と思った。それからその鳥をじっと見つめて・・・
やっぱり「嘘だろ」と。
ハトでもスズメでもカラスでもなくヒヨドリでもなく。
キツツキ?
屋久島でも北海道でも樹海でも原生林でも雑木林でもなく。
大学の構内で?
嘘だろー!
ちょっと目がテン。
キツツキなんてNHKスペシャルとかでしか見たことないし。こんなところで遭遇する予定なんてなかった。野鳥観察ツアーじゃあるまいし。
というか本当にキツツキか? いや、木を突付いてるんだけども。でも木を突付く鳥が全てキツツキだとは限らないじゃない? ハトなんか案外簡単に木を突付くかも分からないし。カラスなんか軽くやっちゃいそうだし。
なんて思いながら気付くと携帯で写真を撮ってた。
動転のあまり動画と写真を間違えてた。写真じゃダメだ。鳥が木を突付く様子や音は、ぜひとも動画で収めねばなるまい。そこでひたすらムービーを撮った。
しかし不思議なものだ。画面越しにじっとその鳥を眺めてるうちに、それはやっぱり本当にキツツキなんじゃないかと思えてきた。こんなに一心に木を突付く鳥はキツツキをおいて他にはいないという気がしたのだ。おかしな話なのだけど。
動画を撮り終えても彼は相変わらず木を突付き続けていた。木の幹にはきれいな円形の穴が二つ、上下に並んであいていた。それを見るにつけてもその鳥はどうやら本当にキツツキらしい。
キツツキは私には目もくれずに木突付きを続けていた。そこで私もしばらくして何事もなかったかのように読書に戻った。周囲は相変わらず読書にもってこいの環境であった。
風が吹けば木の葉がざわめき、雲が切れればページの上で木漏れ日が踊った。遠くから吹奏楽部のトランペットやオーボエが聞こえ、夏目漱石像が今もこの学舎を見つめている。
――その情景を思い返したとき、ふと思考に引っかかるものがあった。
それは違和感ではなく、むしろ歯車が噛み合って回り始めるような静かな感動。
それに気付いた時、私はこの大学の格の高さを知った。
漢字にすれば分かるだろう。つまりはこういう事なのだ。
”この大学では、夏目漱石の傍らで啄木鳥(キツツキ)が仕事をしている”
なぜスズメやハトではなくキツツキだったのか。
そしてなぜキツツキが漱石ゆかりのこの大学内にいたのか。
それについて、文学部の私にとってこれ以上に納得のいく説明はないように思う。
K本大学を受けなかったことを後悔したのは、今日が二度目であった。
2007/ 6/ 3
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タバコ吸ってる人がキョロキョロした瞬間に灰皿を差し出し、時間を聞かれた時に誰よりも早く答えることを生き甲斐にしている。座右の銘は「当意即妙」。軽度のナルシズムは功罪一体で重度のサディズムは秘匿事項。手紙書き・片付け・シイタケが非常に苦手な、体長163cmの学名“Homo sapiens”でございます。
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